「TeamBuddy」は、防災・減災についてみなさんと一緒に考え、行動する静岡新聞社・静岡放送のプロジェクトです。
近年、防災訓練の形骸化が課題になっています。若者で作る防災NPO法人「New Universal Act」と共同で防災訓練や防災倉庫管理・運営の現状を取材し、若い世代も参加したくなる訓練の姿を探りました。
[企画・制作/静岡新聞社・静岡放送 TeamBuddyプロジェクト]
若い世代が主役!防災訓練を考える
主体的な関与で新たな防災訓練を
「行政機関はそもそも若者にどのような役割を期待しているのか」。
防災訓練のあり方を考える上で浮かんだ疑問を解消するため、県立駿河総合高校(静岡市駿河区)の卒業生や現役生で組織するNPO法人New Universal Act(ニューユニバーサルアクト)」のメンバーは8月中旬、県危機情報課を訪ねた。杉山徹課長代理らに現状と課題を取材し、高校生が主体的に地域との連携を模索する必要性を学んだ。
住む場所の災害リスク確認を
県庁を訪れたのは藤本湧磨理事長と、駿河総合高の興津秀太さん(1年)、堀瑠聖さん、服部碧生さん、小寺理紗子さん(以上、2年)の5人。メンバーは初めに、災害時や日頃の備えに関する心得について尋ねた。
「まずは一人ひとりが命が助かる行動を取るということを最低限お願いしたい」。杉山課長代理はこう切り出した。適切な避難行動を取るには、土砂災害、河川の氾濫など身近にある災害リスクを把握しておくことが欠かせないとした上で、「住んでいる場所の特性を理解しておくことが大前提だ」と強調した。
では、自分の住んでいる地域について知るためにはどのようにしたら良いのだろうか。生徒たちの疑問には落合直道主査が答えた。「基本的には各市町が発行しているハザードマップを見ると良い」と助言し、地域によっては「想定津波浸水域」の看板が掲示されていることも紹介した。杉山課長代理は「ハザードマップでは大地震が発生したときに地域が最大でどの程度揺れるのかということも分かる。その情報を基に家の耐震性も考えてほしい」と話した。
学校と自主防の連携カギ
生徒らは熱心にメモを取りながら聞き入った。前提を確認した上で、いよいよ本題に。藤本さんは地域の防災訓練について「高校生は何をして良いか分からずに遠巻きに眺めるしかなく、大人側もどんな作業を任せるべきか悩んでいるというケースが散見される」と指摘。「高校生は参加した証となるスタンプをもらい、学校に持ち帰ることが目的化している」と懸念を伝え、「このギャップをどうしたら埋められるか」という課題意識を投げかけた。
落合主査は「大人は安全を重視するあまり、ケガをする恐れがあるような訓練から高校生を遠ざけてしまうのではないか」と背景事情を推察。「この壁を取り払う必要がある。災害時には大人も高校生もやるべきことは同じ」との見解を示した。
自主防災組織への対応などを担う西島善彰主査は「避難所に指定されている学校は、地域の自主防と連絡協議会を設けて年数回意見交換をしている。そうした場に加わって、高校生にも訓練で中心的な役割を与えるよう声を上げていくことをしてはどうか」と語った。
防災訓練はかなり早い段階から計画を作り始めるため、直前に高校生の声を反映させようとしても難しい状況もあるという。西島主査は「学校行事の一部に防災訓練を組み入れ、地域の協力を仰ぐようにすれば主体的な取り組みにつなげられるのではないか」と解決策を提案。「そうした活動を通じて自主防とのパイプをつくり、連携を深めていけば、新たな地域防災訓練の形を見出すきっかけになるはず」と勧めた。小寺さんは「今後のヒントになるアイデアだ」とうなずいた。
- どう促す、若者層の訓練参加
- 県が2021年度に実施した自主防災組織の実態調査によると、「防災訓練に大学生や若年層(20代)が参加している」と回答した割合は45.8%だった。訓練参加者に若年層を取り込めていない自主防災組織が半数を超えている実態が浮き彫りになった。若年層の参加率を高めるには、学校の指導で参加している高校生世代が防災訓練での役割を認識し、卒業後も継続して参加する環境づくりが求められそうだ。
調査は01年度から4、5年に1回実施。今回は22年2月から3月にかけて県内の5161組織を対象にインターネットで行い、34.6%に当たる1785組織から回答があった。
前回の16年度調査は、若年層が参加していると答えた組織の割合が45.1%。前々回の12年度調査は55.2%だった。21年度は東日本大震災から間もなかった前々回と比べると、9.4ポイント減と大幅に下落。5年前の前回からはほぼ横ばいで、若年層の参加という課題が解消されない状態が続いている。
防災倉庫を探れ!
県内には5000以上の自主防災組織があるが、その約9割5分が自治会(町内会)と同一組織。自治会は地域防災の担い手だ。地域防災の「武器」が収納されているのが防災倉庫。メンバーたちは静岡市の大岩4丁目1区自治会の協力を得て、普段は見る機会が少ない倉庫の中身を確認した。
生活様式に合わせて備える
大岩4丁目1区の住民数は約800人。自治会長の戸田正明さん(76)によると、防災訓練に参加するのはそのうちの3割弱という。1つ目の倉庫から出てきたのは、アルミ製の組み立て式リヤカー。「物資の他に、けが人や歩行困難な高齢者を運ぶことができます」。わずか数分で組み立て完了した。従来の鉄製のリヤカーよりも軽量だ。
「これが便利なんだよ」と戸田会長が次に取り出したのが、LEDライトとポータブルバッテリー、太陽光発電パネルのセットだ。「スマートフォンなど情報機器の充電用にも使えます。こうしてパネルを広げれば、曇りの日でも発電するからね」。現代は情報収集や連絡手段としてスマホが欠かせない。生活様式に合わせて必要な装備も変わってくる―。この自治会は防災用に積み立てを行い、必要な機材を購入しているそうだ。
「おっ、軽い」。藤本さんが運び出したのは発電発動機だ。「これはガソリンの他にガス缶も使える2WAY式です。使える燃料の幅が広がればそれだけ役立つということ」。戸田さんの説明に一同納得の様子。しかもパソコンなどの精密機械が使用できるように「インバーター式」を選んでいるという。
住宅街の一角にある広場にもう一つの倉庫があった。以前はこの広場で訓練をしていたという。この倉庫には折りたたみ担架、防災トイレ、机、椅子、テント、炊き出し道具、貯水プールなどが保管されている。「防災トイレは特に女性への配慮から複数そろえた。また各世帯でも備えてもらおうと、ペール缶を使った簡易トイレも1つ1500円で斡旋しています」。各道具の組み立ては複数人がかりで、コツや体力も必要だ。担架で人を安全に運ぶには大人4人が必要だ。「高齢化、増えない訓練参加者の中で、これだけの装備を十分役立てることができるかな」。戸田さんは不安の表情を隠せない。
[ モノ+人×訓練 ]で防災力アップ
若い世代に対して地域の防災リーダーは何を伝えたいのか。「訓練に参加したという証明のハンコをもらうのが目的になっているように感じます。消火訓練や応急処置体験などをやってもらっているが、他にやってみたい訓練があれば手を挙げて。変えてほしい部分があれば直接話してほしい。若者が防災に関心を持ってくれれば大人はとてもうれしいよ」と戸田さんは語る。また、行政に対しては地域防災の現状を理解してと訴える。「高齢者など災害時に助けが必要な人をまとめた『災害時要援護者リスト』を作るが、援護する側も高齢。リストを活かすための行政の具体的なサポートがなければ共倒れになる」。モノと人をそろえ、訓練を重ねて地域は強くなる。若者が担える役割の大きさを実感した体験となった。
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発電機の使い方まで学べて有意義だった。訓練に参加しなければ本番で動けない。防災力を付けるためには訓練が欠かせないことが分かった。特にトイレに関しては最重要事項なのに準備が不十分で不安だ。みんなで話し合わなければ。
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数多くある備品だが、それらを大人と若者別け隔てなく使えなければ地域の防災力は上がらないことが理解できた。特に体力が必要な作業は、若者から声を上げて進んで取り組む必要がある。
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あらためて自分の地域の防災倉庫の中身を確認したくなった。使えなくなった道具はないか、時代にあった機材が装備されているか。若者の意見も反映できるような議論の場を持ちたい。また、必要な機材が準備され、正しく使えるかを検証するため、夕方からスタートする訓練をしてみたい。
- 防災のプロが一言
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「備えの格差広げないで」葵区防災指導員 藤浪 清さん
訓練の指導などで各地区の防災倉庫を確認する機会があるが、規模、内容、管理・運営に大きな差があるのが実情。災害への備えが注目された時期に一通りそろえたものの、それ以降更新がされていない地区も少なくない。また、使い方を知っている人が役員だけに限られていたり、コロナ禍で訓練実施を中止している間に役員が替わり、情報などが引き継がれていなかったりする自治会もある。
一方で倉庫の備品をリスト化して、何がどこにあるのか住民が共有、機材更新をしている地区もあり、備えに格差が生じている。発災時に倉庫を開けて困らないように、定期的に備品を使った訓練を実施してほしい。隣の自治会と中身を比べ、重複装備を避けるのも一つの工夫だ。
明日からの防災訓練
- 【目的意識を持って訓練に参加しよう】
- 訓練で得た知識・経験が自分や周りの人の命を救うことになる
- 【地域と学校、連携が取れた訓練を実施しよう】
- 地域の人たちから協力を得て学校行事に訓練を組み入れてみよう
- 【装備が現状に合っているか防災倉庫を確認しよう】
- 災害時に重要な装備は生活スタイルに合わせて変化する。情報機器系などの装備について積極的に提案しよう