「TeamBuddy」は、防災・減災についてみなさんと一緒に考え、行動する静岡新聞社・静岡放送のプロジェクトです。「若い力を防災活動に生かそう」と昨年から始まった高校生防災特集「MY防災」。今年も県内6校の高校生が、気になるテーマについて取材しました。
昨年の4校から2校増え、今回の「MY防災」高校生記者は総勢14人。7月に開かれたキックオフミーティングでは、熊本地震を取材した記者から、避難所での生活の様子や、取材中に苦労したことなどの説明があり、道路や水道、トイレなど普段当たり前に利用しているインフラが機能しない生活の大変さを学びました。
この後、生徒たちはグループに分かれ、「災害時の隠れた大問題」「外国人と防災」「富士山噴火と防災」「身近なリスクをチェック」「被災地を訪ねて」のテーマについて取材に取り組みました。
INTERVIEW.1
災害時の隠れた大問題「トイレ」
えざきカルチャープロモーション社長:和田幸宏さん・
静岡市葵区防災指導員:藤浪 清さん(70)
[取材担当] 静岡女子高 奥村希妃さん(高2)、
竹下早百利さん(高2)
「自分の生命に直結するトイレ問題を人任せにしない」
静岡市で防災用品を販売する会社を経営し、ふじのくに防災士でもある和田さんは「静岡県民の間に『静岡には大きな地震が来ないのでは』という間違った考えが広がっているようだ」と心配しています。45年前、東海地震の危険が叫ばれたときは防災組織や施設・用具などの整備が進められたそうですが、その後の備えのレベルが向上していないそうです。特に避難所とトイレ対策は遅れていて、海外の避難所に比べると日本は「とても文明国とは思えない」ということでした。
和田さんは行政や地域に頼らず個人が非常用のトイレを準備する必要があると話しています。まず、薬品と黒いビニール袋がセットになった「携帯トイレ」を用意。便器が使えない状況に対応するためイスとテントがセットになった「簡易トイレ」も準備できればプライバシーも守られるそうです。現在、数多くの非常用トイレがネット通販や、DIYセンターで販売されており和田さんは「食料と違って購入したら何年も保存できるから、まず準備」と呼び掛けています。一方、仮設トイレは和式も多く、組み立てが難しい上に運用が大変なのであまり歓迎されていないそうです。「トイレ問題は、自分の健康・生命に直結するので人任せにしないこと。話題にしづらいことだからこそ、若い人たちの間で積極的に議論してほしい」と話してくれました。
避難所の住環境に関心を持って
藤浪さんは被災地支援の経験から「一番大変なのに誰もが軽く考えている問題はトイレだ」と断言します。「食欲はがまんができるけど、トイレは無理。仮設トイレは数が足りないしすぐに不衛生になってしまう」。ボランティアもトイレについては、なかなか力になれないので非常時のトイレは個人の責任で用意するという意識をもたなければと思いました。
次に重要なのは避難所での寝る環境ということです。床から30センチまでの高さはゴミやホコリが多く、それを吸い込むと呼吸器系の病気にかかりやすくなることが分かっているそうです。「市販の段ボール防災ベッドもあるけれど、高価なので広まっていない。せっかく救われた命なのに、避難所でかかった病気で命を落とす危険があることをもっと知って欲しい」と説明してくれました。藤浪さんは市販品の5分の1の値段で段ボールベッドを開発したそうです。藤浪さんはこれからも誰もが手軽に備えられるような防災用品を考案して広めたいと話していました。
INTERVIEW.2
外国人と防災
県国際交流協会 ・ ネパール人家庭
[取材担当]
清水西高 望月恵利名さん(高3)、
望月野乃子さん(高3)、
遠藤海さん(高3)
多文化理解進めて助け合う仲間に
県国際交流協会で加山勤子さんとブラジル人相談員の南マルシアさん、ベトナム人相談員のレ・ティ・ミーハンさんに話を聞きました。県内の外国人はブラジルが最も多く、フィリピン、中国、ベトナムと続きます。地域にある海抜や避難場所などを示す看板や、ピクトグラムなどの絵を使った表示の認知・理解度はどの国籍の方の間でも低いようです。また、例えば避難所で物資に「ご自由にお取りください」と書けば外国人の方は欲しいだけ持ち帰ります。次の人のために残すといった気遣いは日本人特有で「1人○個まで」と正確に示さなければかえって紛らわしい情報になるそうです。言葉や文化の違いを理解し、情報を確実に伝える方法を工夫するのは日本側だと思いました。
加山さんは、「今後外国人は確実に増え、災害時に日本人と互いに助け合って活動していく存在になる」と話していました。効果的に協力するためにも誤解が生じないコミュニケーション手段を身に付ける必要を強く感じました。
日本の防災教育を海外にも
ふじのくに防災士のマハラジャン・ナレスさんの案内で訪問したネパール人家庭は、水が備蓄されていた程度で、非常食、家具固定といった初歩的な備えもありませんでした。しかし、災害への不安は大きく、防災情報が載ったチラシにふりがながあったり、もっと簡単な日本語で放送してくれたりすれば分かるのにと残念そうでした。ネパールも地震や洪水など災害が多い国で、日本の防災教育は高く評価されています。建物の構造や、国民性の違いからネパールに当てはまらない部分もあるそうですが、日本で暮らすネパールの方たちが日本のやり方をより深く学び、母国に適した方法に変えて伝えていければ、ネパールの防災力も向上するはずです。若い世代の間で積極的な国際交流が必要だと感じました。
INTERVIEW.3
富士山噴火への備え
裾野市立富士山資料館 : 村上久人さん(61)
[取材担当]
裾野高 伊東梨奈さん(高2)、
大沢果林さん(高2)、
田口きらさん(高2)
火山灰被害への対策が大切
富士山が今の形になったのは、約1万年前といわれています。噴火の恐れがあるにもかかわらず今も多くの人たちが周辺に住み続けているのは、富士山がきれいな水など自然の恩恵も同時に与えてくれているからです。
多くの人が山頂から噴火すると思っていますが、実際は頂上からの噴火は、2300年間起きておらず、多くが富士山の周りにある「側火山」からだということです。村上さんによると、約70カ所の噴火口が確認されていて、南東から北西にかけて(時計の10時から4時)の一直線状に分布しているそうです。しかし、どこで噴火するのか分からないので、噴火の場所と規模によって被害の大きさや対策も変わってくるそうです。過去の噴火では大量の火山灰が噴火口の東側に降りました。田畑に積もった火山灰を無計画に川に捨てたため、下流の村に土石流が押し寄せて下流の田畑も全滅し、大きな二次災害を起こしたということです。
村上さんは「今、富士山が噴火すると細かい火山灰の影響でパソコンやスマホなどの電子機器が一切使えなくなったり、水が汚れて飲めなくなったりする恐れがある」と説明します。飲料水や携帯トイレ、電池式のラジオや、食糧などを日ごろから準備しておくことが大切だと改めて思いました。また、火山灰は普通のマスクを通り抜け肺に刺さる恐れがあるそうです。富士山の周辺で暮らす私たちは防塵マスクも用意すべきだと分かりました。
記録に残る過去の噴火とその被害
800年~802年 | 平安時代初期の延暦の噴火 | 火山灰の影響により旧東海道が封鎖され、現在の東海道ができた |
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864年~866年 | 貞観の噴火 | 山梨県側で噴火し、大量の溶岩で富士五湖ができた |
1707年12月16日 | 宝永の噴火 | 同じ年の10月には宝永の大地震が発生。いわゆる南海トラフ地震で、静岡県から高知県にかけて2万人以上が死亡。この地震から49日後に富士山の東側面、宝永火口から噴火した |
INTERVIEW.4
Buddyアプリを使って身近なリスクをチェックする
【 山間部 】(静岡市葵区美和地区)
[取材担当]
静岡商業高 武田有華さん(高3)
より多くの人がピクトグラムの理解を
避難場所兼避難所に指定されている自宅近くの美和小学校の周囲でお話を聞きました。ほとんどの方が避難訓練に参加しています。しかし、アプリに示されるピクト※の意味を知っている人は少なく、なによりも周囲にピクトの看板がありませんでした。ピクトは全国共通でそれぞれ重要な意味を持ちます。多くの人が意味を理解することが大切だと感じました。山間部は津波の危険が無い代わりに大雨による土砂崩れのリスクがあります。初めて山間部を訪れる人に危険を知らせる機能もあればいいなと思いました。
【 沿岸部 】(静岡市駿河区下島地区塩田公園、津波避難タワー、大浜公園)
[取材担当]
駿河総合高 増田圭太さん(高3)、
有馬郁奈さん(高3)
高齢者の不安 若者が解消役に
公園の周りに住んでいる方たちは、海岸が近いために、家族で避難場所を決めていたり、普段から防災について話し合っていたりして、意識が高いことが分かりました。
しかし、避難所、避難場所の違いが分かりにくい、ピクトの意味が分からないという声もありました。また高齢者の方は自力で避難所に移動できるか、避難場所が海岸に近いので本当に助かるのかなど不安を抱えていることも分かりました。こうした不安を私たち若年層が積極的に解消する必要があると感じました。
※ピクト:注意を示す絵文字
INTERVIEW.5
被災地を訪ねて
[取材担当]
浜松商業高 堤田優衣奈さん(高1)、
尾崎菜乙さん(高1)、
高田結那さん(高1)
自然災害の複雑さ学ぶ
以前、浜松商業高に勤務していた宮城県出身の先生が石巻商業高に勤めていることから両校の生徒で商品開発プロジェクトに取り組んでいます。その打ち合わせの際に、石巻市立大川小跡を訪れました。
そこは想像を超えるほどの悲しい場所でした。この小学校で命を落とした子どもの父親の方からお話を聞きました。地震当日も「いつもと同じような日」として始まり、突然の多くの人が悲劇に見舞われました。ハザードマップに津波被害が想定される地区になっていなかったので津波避難訓練をしていなかったことや、地震発生から津波到着まで時間があったにも関わらず避難できなかったことなど悔やまれることばかりだそうです。また、防風林の松が大量に流れ込み、周辺の住宅などを破壊したそうです。災害から人間を守るために備えた物が結果的に被害を拡大させたことに自然の複雑さを感じました。
生き延びれば再会できる
ゲストハウスの方は「自然災害だから誰も責めることはできない」と話していました。また、被害の程度はそれぞれなので、被災地では震災に対する考え方が人によって違うことも知りました。ただ一つ共通なのが「自分の命が一番大事」ということです。家族や友人と明日も会いたいのであれば、まず自分が生き延びること。全員がこの教えを守れば必ずどこかで再会できるということを学びました。
大学生の講評
静岡大学学生防災ネットワーク
代表:河村拓斗さん(静大4)、
瀬尾彩乃さん(静大1)、
栗田侑輝さん(常葉大1)
災害時の隠れた大問題「トイレ」
簡易トイレの使い方まで分かったので、トイレは自分で解決しなければいけない身近な問題という事が伝わった。
「外国人と防災」
外国人が防災についてどう感じているかは、こちらから出向いて会って話さないと分からない。
これを機会に仲間意識を広げて欲しい。
「富士山噴火への備え」
富士山の噴火の仕組みや歴史、現在の被害想定などよく調べている。これを基に具体的な対策について取材を続けよう。
「身近なリスクをチェックする」
自宅近くに津波避難タワーがあるが自分もこの高さで十分か不安を感じる。
周りに住む人の素直な感想を聞けたのは貴重だと思う。
「被災地を訪ねて」
現地で被災者の生の声を聴く経験は辛かっただろうが、必ずこれからの人生に生きる。
被災者の方たちも彼らの思いを忘れずに友達に伝えて欲しいと願っているはず。
瀬尾さんと栗田さんは、前回の「MY防災」に高校生として参加し、進学後も大学で防災活動を続けています