防災コラム
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[しずおか防災人] 郷土の災害 演劇で語り継ぐ義務感 OurBuddy 12
Profile
劇団DAN 代表
松井 清高さん
当時、勤めていた中学校の活性化、生徒の居場所づくりを目的に演劇活動を始めた。9月16、17日には、「狩野川台風」の三島公演を4年ぶりに開催する。
郷土の災害 演劇で語り継ぐ義務感
狩野川台風が起きたとき、まだ3歳だった。出身地の沼津市の狩野川流域もひどい被害だった。消防団員だった父親からは「御成橋(おなりばし)に駆け付けて救助用のロープを垂らしたが、流されていく人をただ見送るしかなかった」と聞かされた。
劇団DANを立ち上げたのは12年前で、学生やお年寄りのアマチュア団員と伊豆の国市を拠点に活動している。狩野川台風をテーマにすることは、大切な家族の命を落とした住民を思うと重過ぎる内容で、個人的にも抵抗があった。ただ、台風からそれなりの時間もたち、地元で起きた大きな自然災害を伝えなければという義務感が強くなって挑戦することにした。
主人公の少女が、狩野川を襲った激しい濁流によって大切な家族や恩師を一晩で奪われるという物語。東日本大震災や熊本地震でもそういう被災者はいたと思う。台風の恐ろしさだけではなく、災害を乗り越えていく主人公のたくましさを丁寧に描いている。
いくつかの演目をやっているが「狩野川台風」だけはほかの公演とは意識が違う。一人でも多くの方に見ていただき、防災への意識を高めてもらいたい。そして劇を演じる子どもたちにも約60年前に起きた災害をしっかりと学んでほしい。
台風や豪雨被害は絶えないが、公演を通じて来場者に日常にある幸せの大切さを実感してもらえればうれしい。
【メモ】 狩野川台風/1958年9月26日夜、伊豆半島を通過し、狩野川流域に大きな被害をもたらした。死者・行方不明者は853人に上った。伊豆の国市には狩野川史料館があり、台風による被害などを伝えている。